今回は、「HACCPの義務化」についてお話します。 みなさんはHACCPの義務化について 「具体的に何をやればいいの?」 「義務化に間に合わないとどうなるの?」 「みんなどうやっているの?」 ということが知りたいのではないでしょうか。 この3つの疑問についてお話していきたいと思います。
この記事では、皆さんから多く寄せられる上の3つの疑問に答えます。
このブログでは次の3つのことを学ぶことができます。
- この記事で学べること(右の「+」を押すと開きます。)
①HACCPの義務化で具体的に何をやればいいのか?
最初にHACCPの義務化で具体的に何をやればいいのかについてご紹介します。
❶手引きの入手
1つ目が「手引きの入手」です。 手引きの入手とはHACCPの知識・やり方が記載されている手引きを手に入れることです。
基本的にこのブログをご覧になっているのは小規模事業者のみなさんではないでしょうか。小規模事業者のみなさんは手引きに従って簡素化したHACCPをやればOKです。
「小規模事業者」とは、飲食業や製造に携わる人数が50名以下のみなさんのことです。
詳しくは、このリンクから厚労省の資料をご確認ください。
〇手引きの入手方法は次の3つです。
1.厚生労働省のHP (リンクから手引一覧のページへ飛びます。)
現在、80種類ほどの「業種別手引書」が公開されています。自分の業種・業態にあった手引をダウンロードして使ってください。
2.保健所の窓口 (※それぞれの地域によって異なります。)
保健所によっては「食品衛生管理ファイル」を配っている自治体もあります。東京都さんが作ったファイルが全国の自治体に広がっていますが、必要な情報だけをファイルにまとめていて、食中毒の原因もわかりやすくまとめられています。また厚生労働省のHPで公開されている手引きの様式とひな型だけを配っている保健所さんもあります。 お近くの職場に近い保健所の窓口で、どんな手引きがあるのかをお確かめください。
参考:那覇市HP「衛生管理ファイル」
3.食品衛生協会 (多くは保健所の中にあります。)
もし保健所で手引が手に入れられない時には、お近くの食品衛生協会に行って「はじめようHACCP」という解説本を手に入れるのも1つの方法です。 これにも記録簿がついています。 絵やイラストがふんだんに使われているのでわかりやすくなっています。もちろんインターネットでも買えます。
参考:日本食品衛生協会HP
❷衛生管理計画の作成と共有
2つ目が「衛生管理計画の作成と共有」です。
手引きを入手したら、衛生管理計画を作りスタッフへ共有して行く必要があります。
〇衛生管理計画の作成と共有で気をつけるべきポイントは次の4つです。
・基本的には今やっていることをそのまま書けばOK (食中毒予防3原則を守る)
・一般衛生管理 = ばい菌を付けない
・重要管理(HACCP)= ばい菌を増やさない、ばい菌をやっつける
・内容をスタッフへ共有することが大事(計画はいつでも見直せる。)
〇食中毒予防三原則とは次の3つになります。
1.ばい菌をつけない
2.ばい菌をふやさない
3.ばい菌をやっつける
みなさんも営業許可を取得する時や講習会の時に、食中毒予防三原則のことを聞いてきたと思います。
日本では「HACCPの制度化」が始まる前から、日本独自の考え方である「食中毒予防三原則」で衛生管理をやっていました。 これがしっかりと根付いていたので、「日本の衛生管理のレベルは高い」といわれていました。 ただ諸外国では国際標準としてHACCPをやっているので、実質的な中身はほとんど変わりませんが今風のHACCPに食中毒予防三原則を組み替えた、みたいなイメージになります。
大事なことはばい菌をつけないために一般衛生管理をやって、ふやさない、やっつけるために温度管理、重要管理(HACCP)をしっかりとやっていくということです。
「食中毒予防3原則」を詳しく知りたい方は、こちらの記事又は動画(長さ4:59)をどうぞ
なによりも大事なことは衛生管理計画を作って終りではありません。 スタッフに共有してもらい、やってもらうことが大事になります。 そこを頭に入れて、しっかりと衛生管理計画を作ってください。
これを読んでいる責任者のあなたが衛生管理計画を作るよりも、スタッフに衛生管理計画のひな形を渡して、それぞれに作ってもらってください。
HACCPを導入するためには、衛生管理計画を個人個人に作ってもらって、「自分ごと」としてとらえてもらう工夫が必要になってきます。 個人でそれぞれ作ってもらい、みんなで話し合って一つの衛生管理計画にまとめていくことが上手くいく秘訣です。。
❸記録と振り返り
3つ目が「記録と振り返り」です。 衛生管理計画ができたら、計画通りに作業ができたかどうかを記録し、できなかったことをヒヤリハットとして書いて、それを共有します。
〇記録と振り返りで気をつけるべきポイントは、次の3つです。
・ヒヤリハットを集めて食中毒事故を未然防止する
・1日1回まとめて振り返るのが基本(製造業は仕込みごとの場合もある)
・ヒヤリハットの共有と教育が大事
記録というのは1日1行記入すればOKです。飲食店のHACCP手引では、一般衛生管理を7項目、重要管理の方は飲食店であれば5項目になります。 記録する項目数は業種によって異なり、5項目から多くても10項目くらいの記録をつけていくという形になります。 基本的には「〇・✖」をつけます。 「✖」の時に問題があれば、ヒヤリハットを記入しておきます。 「ヒヤリハット」=「こういうことが危なかったよ!(ヒヤッとした。ハッとした。)」 です。
どうして1日1回振り返ってヒヤリハットを書くのかというと、このブログを読んでいるほとんどの方は食中毒事故を起こされたことがないと思います。 自分が起こしたことがない食中毒を予防するのは非常に難しいことです。 やったことがないわけですから、どうやったら起こるのかがわからないわけです。
そこで有効になってくる考え方が「ヒヤリハット」と「ハインリッヒの法則」です。
300個くらいの事故にはつながらなかったヒヤリハットがあると、だいたい30個~29個くらいの中事故が起きます。 ちょっとお客様にクレームになったとか、問題が起きたとかです。
その30個くらいの中事故があると、1個の大きな食中毒事故が起きるという風に考えられています。
1:30:300という関係のことをハインリッヒの法則といいます。
食中毒という大きな事故を予防するためには、この1個を抑えようと考えない方が良いです。 目の前に見ることができる300個のヒヤリハットの数を減らすことで、この1個の食中毒の発生件数を減らすことができるということがわかっています。 労働災害で主に使われるような考え方です。 というわけで、私たちは遠回りに見えて 「ちょっとヒヤッとしたな!」 「危なかったな!」 というところを一件一件潰していくことが何よりも大事ということになります。
【確認】厚生労働省の資料確認
ところで、私が 「この3つをやればいいよ!」 といっても 「本当にこの3つで大丈夫?」 という不安もあると思います。 なので、根拠となる厚生労働省の資料を参照してください。
「①(前略) 衛生管理計画を作成し、従業員に周知徹底を図る」は、衛生管理計画を手引に従って作り、共有することでOKです。この共有には、手引書の内容に沿った「教育訓練」も含まれています。教育訓練の頻度や、その効果の見直しもしていきましょう。教育訓練の方法までは指定されていないので、朝礼や作業中の指導、オンラインコースなど、実施しやすい方法を色々試してみましょう。
ちなみに、この「従業員への共有」(周知徹底・教育訓練)は、
保健所の監視票でも最も多く配点(8点)が振られています。
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「② 必要に応じて、清掃・洗浄・消毒や食品の取扱い等について具体的な方法を定めた手順書を作成する。」については、「必要に応じて」とわざわざ書いてあるので、すべての業務に対して手順書を作る必要はありません。「手順が決まっており必要でないため作成していない」ことの理由が適切であれば、作成していない手順書があってもOKです。いずれにしろ、しっかり適切に作業を実施することが必要です。
「③ 衛生管理の実施状況を記録し、保存する」については、手引書のひな形を使って記録し、保管(多くの手引では1年)しておけばOKです。
「④ 衛生管理計画及び手順書の効果を定期的に(及び工程に変更が生じた際等に)検証し(振り返り)、必要に応じて内容を見直す」については、「衛生管理計画」と「手順書」の効果を手引に従って、振り返る必要があります。簡単にいうと先程ご説明した通り、「計画通りにやったけど、上手く行かなかった(ヒヤリハットがあった)」「手順書と違う内容でやってた」などを見つけて、修正することです。
ということで、厚労省の資料をざっくりまとめたこの3つ ❶手引きの入手 ❷衛生管理計画の作成と共有 ❸記録と振り返り ということをやればHACCPはOKということです。
➁HACCP義務化に間に合わない、やっていない場合のデメリット
では、2つ目の疑問、HACCP義務化に間に合わない、やっていない場合のデメリットについてご説明します。
◯厚労省からの「留意事項」
デリケートな問題なので、厚生労働省の資料を確認しましょう。
「衛生管理の実施状況については、これまでと同様に、営業許可の更新時や保健所による定期的な立入等の機会に食品衛生監視員が確認を行います。 新しい制度ですので、当面の間は、導入の支援・助言が中心になります。 分からない点は食品衛生監視員に相談しながら進めてください。」
基本的には食品衛生法に定められているのでやらなければならないです。 しかし、できていないからと言って、いきなり罰則が適用されたり、営業停止になったりすることはありません。一般的には、下記の流れになります。
〇食品衛生法違反の一連の流れ
「食品衛生法違反 → 指導 → 処分・命令 → 罰則」
食品衛生法違反をすると ❶「指導」が行われる。 ❷「指導」に従わないと、いつまでにやりなさいという「行政命令、処分」が出る 。❸その「行政命令・処分」に違反すると、もちろん罰則がある。
◯猶予はあるが、取引上不利になる
こちらに書いてある通り、新しい制度なので、当面の間は導入の支援と助言が中心になってきます。
従って、 令和3年6月1日から義務化がスタートして、HACCPやっていなかったとしても、すぐにその日から保健所の処分で営業停止になるわけではありません。
また出荷ができなくなるというお話でもありません。
飲食店に関しては、来店したのお客様が「HACCPを導入しているかどうか」を指摘する可能性は低いと考えられるので、保健所からの指摘がほとんどになると考えられます。
ラーメン屋さんに入ってきたお客さんが、いきなり「ここ、HACCPやってます?」って聞いたら、「すいません。ウチはラーメン屋なんで、そんなメニュー無いです。」って断りそうですよね(笑)
しかし、小売店さん等に卸している小規模な製造業のみなさんは保健所には怒られなくても、取引先から「HACCPやってないとうちとは取引できない」といわれる可能性はあります。
義務化に間に合わないからといってすぐに法律上罰せられることはありません。
ただし法律違反に なってしまうことに変わりがありませんので、取引上、不利な状態になってしまうことが予想されます。 すみやかに取組む必要があります。
➂みんな本当にHACCPやっているの?
最後に、3つ目の疑問「みんな本当にHACCPやっているの?」「どんな風にやっているの?」についてご説明します。
実際の記録例を持ってきたので、こちらの方をご覧ください。
こちらは沖縄県の石垣島にある焼肉屋さんのデータです。 半月分の記録ですが「〇・✖」つけていて「✖」のところには理由が書かれています。 これはHACCP始めて3か月くらいの記録です。
❶目の届きにくい勤務態度が見える
❷整理整頓・食材のロスが減る
❸細かいところまで掃除するようになる
❹専門知識のアドバイスができる
記録を取り続けて、ヒヤリハットを集め、共有することで段々と衛生管理計画の中身が理解されてきて、しっかりとアドバイスができるようになります。
こんな風に自分のお店で起きているヒヤッとした、ということを1個1個みんなで共有していくことが大事になります。 そうすることで、情報が開示されて風通しが良くなって段々とお店がきれいになっていくということが本当に起きています。 しっかりと頑張っていただければと思います。
今回のまとめ
- ①HACCPの義務化で具体的に何をやればいいのか?
- ➁義務化に間に合わない、やっていない場合のデメリット
- ➂みんなどうやっているの?