6月からHACCPが義務化されましたが、「そもそもHACCPとは何なのか」「義務化に伴い何をすればいいのか頭を悩ませている方も多いのではないでしょうか。今回は、沖縄県食品衛生協会専務理事を務め様々な企業のHACCP導入にも携わってきた専門家の観点から、HACCP義務化の背景からHACCP義務化に伴いスタッフが行うべきことをわかりやすくお伝えします。

HACCP義務化でスタッフがやること(右の「+」を押すと開きます。)

ぶっちゃけてお話をすると、HACCPを責任者や、一部の人だけでやると、ほぼ間違いなく失敗します。大事なのは「食品安全の文化」「社風」です。

HACCPの義務化の背景

まずはHACCPへの理解を深めるために、義務化の背景をみていきましょう。HACCPが義務化されたのには、次のような理由があります。

HACCP義務化の背景

・輸入食品の安全確保
・約10年間食中毒事故が下げ止まり傾向になっており、食中毒を減らす必要がある。
・日本食の輸出拡大とオリンピック対応

輸入食品の安全確保

1つ目は輸入食品の安全確保のためです。貿易に関する条約の中で、輸出国に対して国内の業者よりも厳しい制限をかけてはいけないというルールがあります。

つまり、日本でHACCPを義務化していない場合は、諸外国に対してもHACCPを求めることはできません。

そのため、HACCPを義務化している欧米諸国には出荷できない商品でも、日本に輸出されてくる可能性があるのです。そこで日本でHACCPを義務化することで、海外から危ない商品が輸入されるのを防ごうというのがHACCPが義務化の一つの狙いになっています。

農林水産省 WTO SPS協定(国内外不差別の原則)

加盟国は、自国の衛生植物検疫措置により同一又は同様の条件の下にある加盟国の間(自国の領
域と他の加盟国の領域との間を含む。)において恣意的又は不当な差別をしないことを確保する。衛生植物検疫措置は、国際貿易に対する偽装した制限となるような態様で適用してはならない。

農林水産省WTO/SPS協定 第二条 基本的な権利及び義務

食中毒を減らすため

現在、食中毒の患者数が2万人で下げ止まりになっている状態で、このままま高齢化社会に突入すると食中毒による死亡事故が増えるだろうと予測されています。食中毒を減らす一つの策としてHACCPはが有効だと考えられており、義務化に至ったというのも一つの理由です。

日本食の輸出拡大とオリンピック対応

3つ目は食品の輸出拡大とオリンピックへの対応のためです。先進国の中でHACCPを義務化していないのは日本ぐらいであり、外国に輸出するため積極的にHACCPに取り組んでいるメーカーもまだまだ少ないというのが現状です。

そのため、少しでもHACCPの裾野を広げ、オリンピックに伴い外国の方が来た時に日本はHACCPに取り組んでいないんだと思われないようにしようという狙いもあると言われています。

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HACCPの義務化「職場全体」で取り組む3つのこと

HACCPが義務化され具体的に何を行えばよいのかというと、事業者がやらなければいけないのは次の4点だけです。 2番めの「手順書の作成」は「必要に応じて」となっているので、必ずしも全ての項目で作る必要はありません。「日常的な管理が必要な項目」についてだけ、作れば大丈夫です。

職場全体で取り組むつのこと
厚労省HP「HACCPに沿った衛生管理」の制度化について 抜粋

衛生管理計画作成のポイント

HACCPの義務化に伴い、まずやらなければいけいないのが衛生管理計画の作成です。衛生管理計画は書式の雛形はあるものの、内容に関しては決まったものがあるわけではありません。どのように衛生管理計画を作成すればいいのかわからず、頭を悩ませている方も多いのではないでしょうか。衛生管理計画作成のポイントと手順を紹介するので、ぜひ参考にしてください。

項目にある目的に沿うように衛生管理計画を記載

衛生管理計画を作成するうえで大事なのは、各項目の目的に合わせた計画を立てることです。

雛形の項目一つひとつにはそれぞれ目的があります。

例えば、飲食店における衛生管理計画を例に見てみると、原材料の受け入れから手洗いの実施まで7項目が記載されています。この7項目は 過去のデータを基に食中毒を引き起こす原因となったものが記載されており、7項目をしっかり守ることで大まかな飲食店での食中毒は予防することができるというものを厳選して選んでいるのです。各項目の目的を正しく理解し、目的に沿った通りにできているか考えながら作成を進めていきましょう。

まずは、「手引書」通りの衛生管理計画をそのままやってOKです!

ひな形の形に「完全に」合わせる必要はない=自社の様式でOK!

衛生管理計画は完全に雛形の形に合わせる必要はありません。

手引きの衛生管理計画に記載されているのは優先して取り組むべき最低限の項目だけなので、すでに自社で決まったルールがある場合は自社のルールとうまく組み合わせていきましょう。

手引きの衛生管理計画と自社のルールを見比べ、必要な項目が抜けている場合はきちんと補うようにしてください。書類も現在使っているものがあれば活用し、雛形に「別紙記載●●マニュアル等」と書いておきましょう。

保健所に来るときには別紙記載と書いてある衛生管理計画を見てもらい、きちんと要件を満たしていることが説明できる状態にしておいてください。

合わせて読みたい

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問題が発生した場合の対処法を明確にする

衛生管理計画では「いつ・どのように」行うかだけでなく、「問題が発生した時はどうするのか」も明確にしておく必要があります。問題が発生した時の対処について、抜けているケースが多いので漏れがないように注意しましょう。

そもそも、「なぜ衛生管理計画を作成するのか」というと、食中毒「予防」のため、つまり問題のある食品を出さないためです。食中毒予防において一番大事なのは問題があった時にどう対応するか決めておくことなので、対処法まで明確にしておきましょう。

衛生管理計画の作成の手順

紹介したポイントを踏まえて、衛生管理計画は次の手順で作成していきましょう。

小規模事業者の手引作成の手順(まとめ)

記録のポイント

続いて記録のポイントを紹介します。記録の目的は事故になる前の小さな種のうちに、食中毒の原因を見つけ排除することです。そのため、記録を行うときは良かったことを書くよりも、小さな問題を書くことが重要になってきます。記録を通して些細なことでも食中毒を招きかねない問題はしっかりと拾えるよう見る目を養うと共に、問題を解決する腕を養っていくことが大切になります。

振返りのポイント

振返りの方法は2つあり、個人で振返りを行う方法とお店全体で振返りを行う方法があります。基本的には上司や店長などお店全体で振返りを行い、改善点や目標をみんなで一緒に考えていくようにしましょう。特に同じ問題が立て続けに発生している場合は注意が必要です。問題を発生させている原因を明らかにして適切な対処を行い、問題の改善に努めましょう。

詳しい内容が知りたい方は、こちらの記事を参考にしてください。
「ステップ2「毎日○✕をつけてメモ」&ステップ3 「記録と計画を見直す」」

食中毒を防ぐために「スタッフが」行うべき基本作業

食中毒を防ぐためには、スタッフ一人ひとりが「食中毒の加害者にならない」という意識を持って行動することが大切です。食中毒を発生させないために、次の3点は必ず守るようにしましょう。

やっと本題です。シンプルにするとこの3つになります。

個人の衛生管理

一つ目は個人の衛生管理です。お店に来たらまずは手を洗い、手を清潔な状態にしたうえで店の中のものに触れるようにしましょう。アクセサリー・制服など身だしなみをチェックすると共に、検温や体調のチェックも忘れず行ってください。

「モーニングチェック表」を作って管理するのが一般的です。コロナ感染対策で「検温・手洗い・マスク」が一般化したので、そのまま定着させましょう!

個人衛生の詳しい内容は、下記の記事を読んでください。

衛生管理計画の確認と記録

二つ目は衛生管理計画の確認と記録です。原材料の受け入れから手洗いの実施までルールが決まっているので、自分の今日の担当業務と衛生管理計画をしっかりチェックしましょう。早番の場合は開店前に始業前確認を行い、遅番の場合は終了後の確認を行ってください。そして、衛生管理計画の記録と確認を行います。

ヒヤリハットの共有と見直し

三つ目は見直しです。見直しは1ヶ月に1回程度のペースで行えばOKです。記録の当番を割振り、 改善点が見つかれば改善を行い責任者に報告を行いましょう。本来見直しは従業員みんなで一緒に行うのがベストですが、一緒にできなかったとしても一人ひとりがきちんと見直しをしていれば次第に問題点が共有できるようになってきます。ぜひ一人からでも、食中毒を防ぐために取り組んでいきましょう。

まとめ

HACCP義務化に伴いスタッフが行うべきことは3つで、「衛生管理計画の作成と周知」「記録・振返り」「見直し・改善」です。

そして、日常的には「個人の衛生管理」「衛生管理計画の確認と記録」「見直し」に取り組んでいく必要があります。やるべきことは非常にシンプルなので今回紹介したポイントも参考にしながら、しっかりと食中毒防止に向けて取り組んでいきましょう。