前回までのコラムで、飲食店でHACCPをやるための心構えや、今までとの衛生管理方法との違いを学んできました。
今回のコラムでは、いよいよ「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」(一般飲食店)を実践する具体的な方法をお知らせします。このコラムを読み進めて、今日からあなたのお店でHACCPを実践して下さい。

今回のテーマは、いよいよHACCP実践編です!

このコラムを読んで欲しい人とゴールイメージ

このコラムは、飲食店のオーナーさんや店長さん、そして「HACCPなんてやりたくない」とか「HACCPなんて全く知らない」という人のために書きました。

<このコラムのゴールイメージ>このコラムを最後まで読むことで、下記の目的が達成できます。

1.法律改正で義務化されたHACCPに対応できるようになります。

2.毎日5分間だけ作業してもらうことで、HACCPを実践できるようになります。

3.食中毒を予防して、お客さまに自信を持って美味しい食事を楽しんでいただけるようになります。

小規模事業者が取り組む内容(HACCPの考え方を取り入れた衛生管理)

小規模事業者である飲食店は「手引」にしたがってやればいい、というのがこの厚労省の資料から分かりますね。

HACCPに沿った衛生管理の具体的な実施方法として、私たち飲食店は小規模営業者にあたるので、「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」を実施していきます。この小規模営業者が実施することを厚生労働省のホームページのHACCPに沿った衛生管理の制度化というスライドから抜粋したものが図1です。

図1 厚生労働省ホームページ 「HACCPに沿った衛生管理の制度化」スライドより抜粋 

内容を確認してみます。“小規模営業所等は業界団体が作成し、厚生労働省が内容を確認した手引書を参考にして、以下の①~⑥の内容を実施していれば法第50条の2、第2項の規定に基づき、「営業者は厚生労働省例に定められた基準(一般衛生管理の基準とHACCPに沿った衛生管理の基準)に従い、公衆衛生上必要な措置を定め、これを遵守している」と見なします。”というふうに書いてあります。

法律の言葉なのでちょっと難しいですけれども、ここに書いてある①~⑥の内容を実施すれば法律に定められたHACCPに沿った衛生管理をやっていると見なしますよということになっているということです。簡単にいうと小規模事業者に対して、HACCPがちゃんとできるように簡素化したわけです。
もっとも、このコラムでは、資料で提示されている①~⑥というのが少し多いのと実施の順番の便宜から考えて4つのステップにまとめさせていただきました。

それが図2です。

図2 具体的実施方法の4つのステップ

まず、ステップ1、手引を見て計画を作るというのをやります。

計画を作る際には、手引を確認して今やっていることを原則的にはそのまま書いていただければいいという内容になっています。まずは、今お店の中で実際にやっていることを文字にしていきます。

そしてステップ2、○と✕をつけてメモをとります。1日を振り返って、それぞれの項目について○✕と、✕をつけた理由というのを書いていきます。

ステップ3、計画を見直す、月末に振り返って、✕がどこで起きているかを確認して見直すということをやっていきます。

最後ステップ4、スタッフにやってもらうということをやります。

自分で衛生管理計画をみて、記録(○✕のチェック)を実施することに慣れてきたらスタッフにチェックしてもらうようにしていきます。

このコラムでは、厚生労働省の6つのステップの順番を少し入れ替えさせていただいたんです。
具体的には厚生労働省の手順では3番目に、つまり計画を作ったらすぐ従業員に周知するということになっているんですけれども、私が実際にこのHACCPの支援をしていて感じることというのは、やはり現場の皆さんが慣れていないので最初、HACCPに取組むことに拒否反応が出ちゃうんです。

その時に、拒否反応を示しているスタッフに上手く説明できないと、「何でこんなことやらないといけないの?」という反発みたいなのが出てきてしまいます。
そこで、順番を少し入れ替えています。具体的には、率先垂範で責任者の皆さん、つまり今学んでいるあなたに、まずやっていただいて、その後から周知するという形のほうがうまくいくだろうということで先に責任者に実践してもらう順番にさせて頂いています。

ステップ1 手引きを見て計画を作る。(HACCPの衛生管理計画)

HACCPを実施する方法のステップ1は手引を見て計画を作るということになります。
そして、この衛生管理計画は、飲食店では「小規模な一般飲食店事業者向けのHACCPの考え方を取り入れた衛生管理の手引書」を参考に作ります。

具体的にその内容を見ていくので、図3をご覧ください。手引を見て、計画を作る具体的な手順です。

いよいよ「手引の入手方法」からスタートです!

①飲食店の手引の入手方法

では、まず①飲食店の手引書を入手する方法を学んでいただきましょう。

検索エンジンの窓に「厚生労働省 HACCP」と入力します。

すると、厚生労働省のホームページの中に「食品等事業団体が作成した…」という所が出てきますので、こちらをクリックします。

その真ん中あたり、2段目の所に「食品等事業者団体が作成した業種別手引書」というのがありますので、こちらの方をクリックします。

すると、厚生労働省が確認して各業界団体が作った手引書の方が約70個、今公開されています。

一番最初に出てくるのが小規模な一般飲食店:詳細版と、小規模な一般飲食店:概要版というのがあります。こちらの方は詳細版の方がページが多くて詳しく内容が書いてありますので、基本的にはこちらの方を参照に作っていくという形になります。

画面をクリックするとPDFのページに移って、31年度改定の手引書が公開されています。

この中身に従って、危害要因を分析して中身を読むとこの危害要因等が書いてありますので、こちらの方の中身を確認していただいてしっかりと作っていただければと思います。

ちなみに他の業種のものに関してはこの五十音検索の部分をクリックしていただくと、五十音別にそれぞれの業種のものがザーッと出ていきていますので、そこをしっかりと中身を確認して、飲食店だけではなくて、他の食品事業もやっているという方はこちらの方から手引を確認されるといいと思います。

手引の入手方法は以上です。

②飲食店での危害要因(食中毒の原因)を理解する。

それでは次に②手引を読んで飲食店で何が危害要因(食中毒の原因)になるかを理解するというお話しをさせていただきと思います。

HACCPの「HA」にあたる「危害要因分析」=食中毒の原因を理解するところです!ここの「知識」=「予防」につながります。

この危害要因については、確かに手引書にも書いてあるんですけれども、コラムのような形で作業のページにちょっとばらばらに書いてあるので、図3の『はじめようHACCP』使って学ぶことをおすすめです。

図3 「はじめようHACCP」の危害要因の説明

770円と有料ですけれども、まず危害要因についてわかりやすくまとめているというがありますし、それだけではなくてイラストもふんだんにあったり、手順書もわかりやすく書いてあったり、それからスタートノートという衛生管理計画の記入用紙と記録用紙が別冊になっているのでとても使いやすいです、おすすめです。
こちらを見ていただいて危害要因というのを学んでいただければと思います。

 →購入先のリンク(日本食品衛生協会サイト)
  ・はじめようHACCP(770円)
  ・記録簿(12ヶ月分)(255円)

 

飲食店での危害要因(食中毒原因)の中身を少し紹介すると、例えば一番怖いのはノロウイルス、そしてカンピロバクター、サルモネラ、ウエルシュ菌あたりが飲食店で起きている食中毒の原因としては多くて、最近はアニサキスというのが増えてきています。

こちらの方の手引書を参考にしたり、またいろんな保健所で配られる資料等々を参考に飲食店でこんな食中毒が起きていて、うちでも起こる可能性があるんだなということをしっかり学んでいただけたらというふうに思います。

③手引書の記入例を参考に衛生管理計画と手順書を作る

それでは最後に③手引書の記入例を参考に衛生管理計画と手順書を作るというお話しをさせていただきたいと思います。

図4 衛生管理計画の具体例

図4が衛生管理計画の記入例を示したものです。一般衛生管理計画と重要管理計画、いわゆるHACCPの衛生管理計画という二つに分かれています。

「今やっていること」を書けばOKですが、わからない場合は手引の記入例をそのまま「自分のお店の衛生管理計画」にすることもOKです!
まずは、スタートすることが大事!

一般衛生管理のポイント

では、まず一般衛生管理の計画から見ていきましょう。

一般衛生管理の計画は原材料、それから庫内温度の確認など、七つの項目で定められています。

その中身はいつどのように問題があった時にどうするかということが定められているので、今現在お店でなさっていることをそのまま書いていけばいいということになります。

「一般衛生管理」は「ばい菌をつけない」ためにやるものです!
あんまり難しく考えなくても、何とかなります。

記載例は沖縄県の沖縄料理店で作ってもらったものを参考に持ってまいりました。お店のイメージとしてはキッチンには大将が1人いて、お手伝いの人が1人、そしてホールが2人と、あとはオーナーさんがいるくらいの5名程度で回しているお店ということですけれども、こんなふうにいつ原材料の納入時に

(1)野菜、生肉、生魚、これは簡単にいうと市場で仕入れてくる物です。市場で仕入れてくるものについてはにおい、形、色に異常はないか、生肉・生魚は温度も計る。

(2)加工品は外観温度に以上(異常)はないか、異常の漢字が間違っていますけれども、これはわざと修正をせずにそのまま使っています。

賞味期限内のものか、消費期限が短いものはないかということを確認してお店に入れているという形になっています。

「問題があった時にどうするか」を決めておくことが重要

この「問題があったとき、どうするか」を予め決めておくことが大事です!

そして最後に問題があった時、返品・交換してもらう。軽微な場合には料理長に報告して判断してもらうというふうになってきます。

この問題があった時どうするかというところがポイントになってくるんですけれども、皆さんのお店でも、いつ、どうやってというのはもちろん決めてあると思うんですけれども、この3番目、問題があった時どうするかということを明確に文字にして定めているお店というのは、案外少ないかもしれません。

HACCPは問題のある食品を出荷しないということがその目的、つまり食中毒の予防が目的になっていますので、問題があった時どうするかということを定めておくことが、とても重要になるんです。

そこでこのように返品・交換してもらうとか、軽微な場合は料理長に報告して判断してもらう、入れられそうなものは入れていくみたいな現実的なところも決めておくということが大事です。仕事で事故が起きた時に原因を調査すると一番出てくるセリフが「このぐらい大丈夫だと思った」というのが現場のスタッフだったり、責任者から出てくるんです。

私は本業が検査会社をやっているのでよくクレーム原因の追及で検査だったり現場の調査をしたりすることがあります。その時に出てくるのが、「いや、このくらい大丈夫だと思ったんだよね」という、工場長さんだったり、料理長さんだったりというお話だったりとか、「うちのパートがこのくらい大丈夫だと思って出しちゃったんだよ」というようなことが出てくるんです。

やっぱりその「このぐらい大丈夫だった」ということをパートさんに判断させるのはとても危険です。

また、食中毒の原因というのはこの一般衛生管理の不備で起きていることがすごく多いので、この一般衛生管理といって、今までやってきた内容になっているので何となくこのぐらいで判断できるだろうと皆さん思っているかもしれませんけれど、こういう時にしっかりと問題があった時どうするか。事故を予防するためにはどこを判断すればいいのかということをしっかり文字にして共有できるようにしていただけたらというふうにおもっています。

重要管理計画(HACCP)のポイント

ここは、主に「ばい菌を増やさない」「ばい菌をやっつける」ルールを決めます。
「危険な温度帯」に長く置かないように、メニューを3つに分類します。

次は重要管理ポイントの中身を見ていきましょう。

重要管理ポイントというのは、メニューを三つに分類して、それからチェックして方法を定めていくという形をとります。

まずメニューの分類ってどんなものなのかというところですけれど、

まず第1グループ、非加熱のものというのは冷蔵品を冷たいまま提供するものです。

そして第2グループは冷蔵品を加熱し、または加熱後を高温保管して提供するものです。

第3グループが加熱後冷却し、そのまま提供するか、または再加熱して提供するものです。

いわゆる仕込み品です、カレーとか、スープとかそういったもののイメージということになります。

具体例を見てみましょう、まず第1グループ、非加熱のもの、冷蔵品を冷たいまま提供するものですけど、一般的なサラダ類とか冷やしトマトとかそういったものですよね。

チェック方法、“生野菜はカット野菜を使うか、外皮を洗浄したあと、次亜塩素酸ナトリウム200ppmで殺菌する。カットした後は冷蔵庫で冷やし、食べる直前に提供する。”というふうになっています。

第2グループは加熱するものですけれども、例えばとんかつとか唐揚げとかコロッケみたいな揚げ物は、1個1個中身を決めるのではなくて、「揚げ物」とグルーピングしてメニューを分類して構いません。

そしてチェック方法を見てみると、“180度のフライヤーでそれぞれの時間で揚げる。とんかつは120℃15分で1度揚げておき、油切りをしておく。”

例えば焼き物はステーキ、焼き鳥、ハンバーグとなっていて、こちらの方のチェック方法は“火の強さ、焼き色、温度で確認する。”となっています。ハンバーグと焼き鳥は仕込んで事前に加熱というふうになっているということになっています。

HACCPの知識のある方は、「ここは重要なところだから、温度と時間を計らないといけないんじゃないの?」と考える方もいるかもしれません。でも手引を見てみると、そんなことは実は書いていないです。また、現実的にも食品工場と違って、作るものが事前に決まっているのではなく、お客さまが来てからオーダーを受けて実際に食品を作っていくという飲食店では、いちいち温度を計っていたら仕事になりません。現実的ではないということになります。

そこでこのようにちゃんと加熱したかどうかのチェックした方法というのは火の強さ、焼き色、温度で確認するという内容でOKというふうに手引に書いてあるんです。

皆さんのお店でもたくさんメニューがあると思いますけれど、この三つのグループにメニューを分類してチェック方法を定めていっていただければと思います。

こちらの方の詳しい内容についても少し時間を設けてまた別の動画で説明する機会を頂ければなというふうに思っていますので、その際にはぜひ参考にしていただければというふうに思います。

基本的には手引を見て、それを参考に今皆さんがやっているチェック方法というのを定めていけばいいという形になっているということになります。

次のコラムでは、ステップ2以降を説明していきます。

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