前回のコラムまでで、衛生管理計画(HACCP)を作って「見える化」して、実践して、記録を付けて見直していただき、必要な部分の改善していただきました。今回はいよいよ「スタッフに」衛生管理計画(HACCP)を実践してもらう場面です。ここまでできればHACCPはほぼ完成といっていいと思います。

 今回のコラムでは、この一番大事で、一番高いハードルである「④スタッフにやってもらう」場面を説明します。

今回のテーマは、「スタッフにHACCPをやってもらう」です。
みなさんのお店の中でも、「HACCPなんてやりたくない」と「しっかり頑張る」という方に分かれているはずです。このコラムで対応方法を学んで下さい。

このコラムを読んで欲しい人&ゴールイメージ

このコラムは、飲食店のオーナーさんや店長さん、そして「HACCPなんてやりたくない」とか「HACCPなんて全く知らない」という人のために書きました。

<このコラムのゴールイメージ>このコラムを全部読むことで、下記の目的が達成できます。

1.法律改正で義務化されたHACCPに対応できるようになります。

2.毎日5分間だけ作業してもらうことで、HACCPを実践できるようになります。

3.食中毒を予防して、お客さまに自信を持って美味しい食事を楽しんでいただけるようになります。

飲食店HACCPの導入方法4ステップ(ロードマップ)

HACCPの具体的な実施方法 ステップ4「④スタッフにやってもらう」

 次の動画では、いちばん大事なところ、「④スタッフにやってもらう」というお話をします。
 この段階では、まず皆さんが自分でHACCPをやってみて、やることに慣れたら今度はスタッフにチェックしてもらうステージに入っていきます。

 この段階では、オーナーやシェフは計画通りに動いているかどうかというのを確認することが主な仕事になって、一番大事なのは、全員が衛生管理をできる技術と気付き、そして考える力を身につけられるように任せていくということになっていきます。

<ステップ4:④スタッフにやってもらう>段階で目指す具体的なゴール

 ①スタッフ全員が衛生管理計画を理解して実践できる。=衛生管理計画の中身を知っている。
 ②スタッフ全員が異常に気がつける。=衛生管理計画の目的を知っている。
 ③スタッフ全員が改善方法を考えることができる。=食中毒の予防方法を知っている。

<実際の記録例・一人でやっている記録>

 ①日々のチェックが一人でされている。

 ②特記事項が聞き取りされているので、伝聞(自分で確認したのではなく、人から聞き取った形)になっている。

 先ほど見ていただいた記録ですけれども、こちらモザイクで消えていますけど、日々のチェックを1人でなさっています。最初のうちはHACCPを勉強したり、その知識がある方が少ないでしょうから、こんなふうに1人で最初は始めて、コツコツやっていきます。

 一人でやっているので、この“トイレが汚れていた、来た時から具合の悪い人がいたのでその人だと思うとのこと”というふうにいわゆる伝聞で書いてあります。
 これは、スタッフさんに対して「何か異常なかった?」と聞き取って書いているから。「その人だと思うとのこと」というような書き方になるわけです。

 最初の段階はこれでもいいんですけれども、ある程度慣れてきたらスタッフ一人一人がちゃんとこういうヒヤリハットを書くというところまで成長していただかないといけないです。
 なぜなら、スタッフが自分で書くところまで教育し、考え方を一緒にしていかないと、①当事者意識が持ってもらない②衛生管理に必要な知識が身につかない、そして、いちばん大事な③スタッフ一人一人の気づきと問題点を先送りにしないという「お店の体質」を作ることができません。

 この衛生管理を無理なく実践できる「お店の体質」を作り上げていくことがHACCPの成功の一番の秘訣になりますし、重要なポイント(メリット)です。

HACCPを簡単にする一番の近道は「ヒヤリハット」を集めること

スタッフにあれこれ説明するよりも、「1日1個、ヒヤリハットを書く」ということを徹底させることが大事です。

 繰り返しになりますが、良い「お店の体質」作りの一番大事なポイントが③スタッフの気づきと問題点を先送りにしないことです。その具体例というか、なぜそうなるかということを少し見ていきましょう。

お店の体質を変えよう「悪循環」の輪を断ち切る。

①なるべく波風は立てたくない

問題のあるお店の体質を整理すると、大体なるべく波風は立てたくないという雰囲気です。「余計なことは言わないとか」、「みんな頑張っているだからあまりうるさいこと言ったらだめだよね」みたいな感じの雰囲気が漂っているんです。

②問題を先送りする。気づかないふりをする。

「波風は立てたくない」という雰囲気があると、お店の中で問題があっても、その問題を先送りするわけです。または問題に気づかないふりをするわけです。そして新しく入った人たちは「自分の責任ではないし」みたいな感じで、あらゆる面倒くさい問題を先送りしてしまうわけです。

③信頼し合わない、お互いに隠し合う。

 しかし、問題は先送りしても、いずれ必ず実際の故障やクレームとか、損害(売上低下、原価上昇)として、トラブルとして起きてしまいます。
 問題が発生するとさらに面倒くさくなりますし、問題解決に苦労するので、やる気のある一部の人が「うちのお店おかしくないですか?」みたいなことをオーナーだったりとか周りの人に聞いたりして何とかしようとするわけです。
 それで問題が解決すればいいんですが、多くの場合、更に「お店の体質」としては悪化します。
 なぜなら、問題を先送りしてきた人たちは「あいつ、ちくりやがった、俺たちだって本当はやりたいのに、みんなのことを考えて我慢しているんだ」みたいな感じなります。罪悪感があるので、先送りが原因で上司やお客様から怒られたりすると、上司やお客様ではなく、問題を指摘した人に対して、「あいつは信用できないから余計なことを言うな!」みたいな感じになっていきます。

④陰で避難しあう。表立っては何も言わない。

 ここまで来ると「陰で非難しあって、表立っては文句を言わない」という雰囲気になってくるんです。
 問題を改善しようと思っている人がいろいろ改善を提案しても、先送りをしてきた人たちにとっては、「ワーワー」と文句を言っているようにしか感じられなくなります。「またあの人俺の文句言っているよ」みたいな感じになっていきます。
 その結果、「どうせ言っても無駄」とか「正直者はばかを見る」とか「言い出しっぺは損」みたいな雰囲気になっていきます。何となく派閥めいたものもできてきます。

⑤牽制と足の引っ張りあい

 この雰囲気になると、「自分が言っても損するだけだから」とか「あまり正しいことばかり言うと・・・」とか、「お店のことを考えてやっても・・・」とお店の改善することが「自分にとっての損」になります。
何か改善しようとしても、結果として周りから文句を言われるわけですから、足の引っ張り合いになるわけです。
 改善するくらいなら、みんなでお店の文句や、上司の文句を言っていたほうが楽なんです。「本当は、俺だって改善したほうが良いと思うんだけど、ウチのお店はオーナーがダメだから」「改善を提案したのに全然受け入れてもらえないよ。無視された。」
 そうすると本当に困っていてどうにかしようと思っている人に対しても無視するわけです。「大変だよ、助けてくれ」と言ったとしても「私に言わないで!」みたいな感じでそっぽ向いちゃうという形になるんです。

 そうすると表面上は仲はいいけれど、結果として牽制と足の引っ張り合いをして相手の出方を見ているわけですから、①なるべく波風は立てたくないというふうな形に戻っていくということになります。

この悪循環がぐるぐる回っているというのが問題のあるお店の体質ということになります。

HACCPの導入を邪魔する悪循環を止める唯一の方法

この悪循環を止める方法というか、止める場所が1カ所だけあるんです。

どこかわかりますでしょうか? もう一度、図を見て考えてみて下さい。

それはこの「②問題を先送りする」というところです。

 この問題を先送りするという体質を改善しないと、必ず従業員たちのお互いの信頼関係が失われ言って、お互いに隠し合うようになって、問題はやっぱりトラブルとして起き続けてしまうということになるんです。ここから先は、感情の問題なので他人がコントロールすることはできません。
 唯一コントロールできるのが、「問題を先送りしない」=「問題をみんなで共有する」という行動のルールを決めることです。

 HACCPを理由にして、小さなヒヤリハットのうちにみんなで情報を共有してそのヒヤリハットに対する考え方とか、改善方法だとかということを現場のスタッフから考えを聞いて、みんなで相談して決めていくというのが重要になるということになります。

 実は、HACCPの記録でヒヤリハットを書くというのは、この問題を先送りしないお店の体質を作るということにとって一番重要な具体的行動です。


 衛生管理計画を見なくても、記録欄の「良」に「◯」をつけることはできます。
 しかし、「否」に◯をつけ、特記事項に「ヒヤリハット」を書くためには、衛生管理計画を見るか、理解していないと絶対に書けません。

ここが「HACCP」を定着させる「核」になる部分です。

 皆さんもぜひ手引の記入例を見てください。そこにはヒヤリハットしか書いていないです。例えば“A君が手を洗わなかった”とか“ハンバーグが赤かった”とか“C君がガラスを割った”とか”体調が悪そうだった”とか、そういった細かいヒヤリハットというのが手引の例に書かれているのはどの手引にも悪いことしか書いていないです。

そのHACCPをやっていく上で一番重要で、また新しく始めなければいけないこの記録ということの本質は、とどのつまり問題を先送りにしないように気づかないふりをしないように小さなヒヤリハットのうちにみんなで情報を共有しようねという点にあります。

というわけで、やっぱり1人だけ見ているのではなくて、全スタッフでこの記録をつけてやっていくという形にしていくことが、HACCPの実施するための具体的なステップ4、一番重要でかつ一番難しいところということになっていきますので、しっかりとやっていただけたらと思います。

次の記事では、HACCPの記録を取り続けた事による具体的な変化、についてお話していきます。

HACCPをどうしてもやってくれないスタッフがいる場合には、こちらの動画をみてください。