殺菌だけで「ばい菌」は殺せない?ばい菌を排除する「正しい清掃」とは?

食中毒の原因は様々ありますが、多くは食品を作る器具の洗浄不足が原因で事故が起きています。いくら殺菌や温度管理は適切に行っていても、器具が汚れているとばい菌はついてしまいます。ばい菌の侵入ルートからHACCPのメインテーマであるばい菌を取り除く正しい清掃方法・清掃の注意点まで詳しく解説します。

ぜひ、このコラムを参考にして、あなたのお店のHACCP教育と「食品の安全」にお役立てください。

ばい菌たちが通る3つの道

ばい菌の侵入を防ぐには、ばい菌がどこから侵入してくるか正しく理解しておくことが大切です。

ばい菌は次の3つのルートから侵入してきます。

1. 私たちの手や衣服:
食品を作る私たちの手や衣服を通って、食材にばい菌がついてしまうことがあります。

2. 安全でない原料:
正しい取り扱いや作り方が守られなかった安全でない原料が入ってくることで、ばい菌が食材に入り込むことがあります。

3. 設備・器具:
食品に直接触れたり間接的に触れたりする設備・器具が原因となり、ばい菌が混入することもあります。

つまり、「人」「原料」「設備器具」の衛生が守られていれば、ばい菌が食品に入ることはありません。反対に、3つのうち1つでも正しく守れていないと、ばい菌は侵入してきてしまうので注意してください。

「 正しい清掃」のやり方

設備器具からのばい菌の侵入を防ぐには、正しい清掃方法でばい菌を追い払うことが重要になります。

「正しい清掃」とは、作業手順書に描かれた作業手順を守った清掃・洗浄・殺菌作業のことです。

みなさんの会社にある「作業手順書」には、ばい菌を付けない・増やさない・やっつけるために、何をどのようにどんな順番で行うのか事細かに決めたルールが記されています。
この作業手順書を、しっかりと守るということが。「正しい清掃」において大切になります。
家庭での清掃は見た目をきれいにピカピカにするためのものですが、安全な食品を作るためには見た目のきれいさだけではなく、ばい菌が着いていない状態(衛生的な状態)であることが大切です。

ルールを守ることが大事

正しい清掃においては、何よりもルールを守ることが大事になります。決められたルールを1つでも守れていないと、清掃の効果を生み出すことはできません。 まな板の標準作業手順書を例に見てみましょう。

作業手順書では次のように、ルールが定められています。
1. 水洗い1 まな板に中性洗剤をつけ、スポンジ・たわしでこすり洗いします。
2. ハイター殺菌1 ハイターをキャップの半分(約20ml)とり、まな板の表面に広げ、フライ返しなどで全体に広げます。
3. ハイター殺菌2 広げたハイターの上に、サランラップをかぶせて、ハイターが蒸発しないようにし、翌日の作業開始まで放置します。
4. 水洗い2 作業開始前にサランラップをはずし、水洗いで残ったハイターをきれいに落とします。

この1~4の工程をしっかり守ることによって、まな板が清潔に洗浄・殺菌できます。ハイターが既定の量を守られていなかったら殺菌効果は出てこないですし、サランラップを被せてないとすぐに塩素が飛んでしまい中まで充分に殺菌できないなど、1つでもルールが守られていないときちんと洗浄・殺菌は行えません。

正しい清掃においては見た目のきれいさだけでは十分でなく、ばい菌が付いていない状態(衛生的な状態)にすることが大切です。
そのために、作業手順書に定められた時間や回数・掃除方法をきちんと守り、手順通りに清掃・殺菌作業を行っていくのが「正しい清掃」となります。

器具の洗浄と殺菌

続いて器具の洗浄と殺菌について紹介します。洗浄も殺菌も同じものだと思われている方もいるかもしれませんが 、全くの別物のためしっかり違いを理解していきましょう。

「清掃」と「殺菌」の違い

「清掃」と「殺菌」の違いは、目に見える汚れを落とすか、ばい菌を殺すかの違いがあります。「正しい清掃」はばい菌を設備・器具から追い出すことを目的にしており、殺菌作業だけをしっかりやれば良いと考えている方もいるかもしれませんがそれは間違いです。清掃と殺菌は深いかかわりがあり、清掃がしっかりされていない状態でいくら殺菌をしっかりしてもばい菌を追い出すことはできません。

「殺菌」を支える「清掃」の効果

清掃を行うことにより見た目が綺麗になるだけでなく、次のように殺菌を助けるさまざまな効果が生まれます。

1. 細菌数を減らす=除菌 1つ目の効果が、細菌数を減らすいわゆる除菌効果です。例えば、作業台を水洗いしただけでも、水と一緒にばい菌が排水溝へ流れていくため作業台のばい菌の数を減らすことができます。

2. 殺菌作業を簡単に=バイオフィルムの除去 2つ目の効果が、殺菌作業を簡単にする効果です。ばい菌は自分たちが増えやすくするために、死んだ後に死骸がバイオフィルムというぬめりの状態になります。ぬめりは殺菌剤を浸透させないため、放置しておくと殺菌作業がうまくできません。この厄介なぬめりを、清掃によって取り除くことができます。

3. 殺菌効果の低減防止 3つ目の効果が、殺菌効果の低減防止です。ばい菌たちの作ったバイオフィルムの中にある酸やアルカリ・タンパク質が残っていると、殺菌剤を無効化するバリアを作っている状態なので、殺菌剤の効果がどんどん薄くなってしまいます。清掃によってきちんとバリアを取り除いておかないと、殺菌剤を撒いてもばい菌が生き残ってしまう可能性があります。

4. 栄養分の除去 4つ目の効果が、栄養分の除去です。ばい菌はを殺菌したとしても、完全に0の状態にすることは難しくなっています。そのため、栄養分が残っていると、殺菌が排除しきれなったばい菌が増殖してしまう恐れがあります。清掃をして栄養分を取り除いておくことで、ばい菌の増殖を抑えることができます。

洗浄(清掃)をしないとこれだけの効果が低減してしまうので、十分に食品の安全を確保することができません。殺菌は単体で行っても効果が不十分で、洗浄と組み合わせて行うことで初めて効果が出るということをしっかりと覚えておきましょう。

具体的な清掃方法で気をつけるべきこと

正しい清掃を行うために、今まで学んできたことをおさらいしていきましょう。

まずは、ばい菌はどこから侵入してくるのかというと、次の3つのルートから侵入してきます。

・私たちの手や衣服
・安全でない原料
・設備・器具

このうち設備・器具からばい菌を除去するには、「正しい清掃」でばい菌を追い払うことが大切です。
「正しい清掃」とは決められた手順を守った清掃・殺菌作業のことです。
殺菌だけは行えばいいのではなく洗浄と組み合わせて初めて効果が生まれるので、清掃と殺菌は必ずセットで行っていきましょう。

効果の確認も忘れずに行おう

清掃はやって終わりではなく、効果を確かめることも大切です。効果の確認は毎回行う必要はありません。

月に一回定期的に行う・事故が発生した時に行うなど、自分のお店の課題に合わせて目的を決め実施していきましょう。
必ずしもばい菌を0にする必要はないので、自分のお店の基準を決めて少しずつ減らしていくことが大切になります。変にばい菌数が増えていないか、しっかり確認をしていきましょう。

確認の方法としては、スタンプ検査や拭き取り検査、ATP検査などがあります。ばい菌は目に見えないため、正しく清掃が行えているのか判断が難しくなっています。
自分では正しく行えているつもりでも、ばい菌が数多く残ってしまっていることもあるので検査を行い数値化して確認していきましょう。

また、定期的に評価をしないといつのまにルールが守られなくなってしまう可能性もあるので、正しい清掃を継続して行くと言う意味でも効果の確認は大事になります。

まとめ

ばい菌の侵入ルートの一つである設備・器具からばい菌を排除するためには、作業手順書のルールを守った「正しい清掃」を行うことが大切になります。清掃(洗浄)と殺菌は組み合わせて初めて効果が出るということを頭に入れて、ルールを守った清掃でばい菌を取り除きましょう。

また、検査を行い効果の確認を行うことも大切です。検査と聞くとめんどくさく感じるかもしれませんが、スタンプ培地をスタッフに渡して一人ひとりがばい菌の潜んでいそうなところを探してみるなど、ゲーム感覚で楽しみながら効果の確認を行うこともできます。

ばい菌は目に見えないため、 検査を行って数値化し本当にばい菌が排除できているのか確認してください。