このコラムでは今まで、HACCPを実施する理由や心構えなどを説明してまいりました。
そして、前回のコラムからいよいよHACCPの具体的な実践方法の説明に入り、「衛生管理計画」をつくっていただきました。繰り返しになりますが、HACCPの衛生管理は、何か新しいことをやるのではなく、現在、実施している衛生管理を「見える化」して、改善していくことです。作業は「記録」することで「見える化」することになります。
今回のコラムでは、「記録」の実践方法を説明して行きます。
「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」で新しく追加される作業は、この「記録」です!ここからが本番です!
このコラムを読んで欲しい人&ゴールイメージ
このコラムは、飲食店のオーナーさんや店長さん、そして「HACCPなんてやりたくない」とか「HACCPなんて全く知らない」という人のために書きました。
<このコラムのゴールイメージ>このコラムを全部読むことで、下記の目的が達成できます。
1.法律改正で義務化されたHACCPに対応できるようになります。
2.毎日5分間だけ作業してもらうことで、HACCPを実践できるようになります。
3.食中毒を予防して、お客さまに自信を持って美味しい食事を楽しんでいただけるようになります。
HACCPの具体的な実施方法 ステップ2「毎日○✕をつけてメモ」
HACCPを具体的に実施する方法のステップ2は、「毎日○✕つけてメモ」です。
まず、メモをつける方法は、手引を参考にして作った衛生管理計画の内容通りに仕事がちゃんとできたかというのを仕事が終わったタイミングで振り返ります。
問題がなければ良に○を、問題があれば否に○か✕、私は✕がいいと思っているんですけれども、○か✕をマークし、✕の場合はその理由をメモしておくということが必要になってきます。
こちらの方、二つとも一般衛生管理の記録と、重要管理の記録の両方がありますので、そちら書いていただければと思います。
具体例を示します。
一般衛生管理記録の具体例
まず一般衛生管理の具体例ですけれども、例えば9月1日、4-2の手洗いの実施の所に✕がついています。
そして特記事項をみて見ると、“A君が出社後、すぐに予約の電話がかかってきたため手を洗わずに包丁を握った。その場で指導”とかです。
4月2日、こちらは交差汚染の所の否に○がついていますね。”B君がサラダと付け合せを切る時に生肉用の包丁とまな板を使用したのでその場で指導した”、
それで、3日は温度計の所が少しおかしくなっています。“作業中に冷蔵庫温度を確認したら15度だった。20分後再度確認したら3度だった。忙しくて食材の出し入れが頻繁だった。すぐに温度が戻ったのでそのまま使う。”みたいな感じで○がついている、それぞれ✕がついているというか、否の所に○がついているという形になっています。
重要管理記録の具体例
重要管理の記録の具体例を示しますので見ていきましょう。
例えば2月3日、加熱するものの所に✕がついています。“2月3日、お客さまからとんかつの中が赤いとのクレームがあった。ヤマダ君に確認したところ、忙しかったので二度揚げせずに出したとのことであった。お客さまにはお詫びし交換して、万が一のために連絡先を頂戴した。B君に加熱不十分の食中毒の危険性を指導。”
次ですけど、“2月4日、出勤したら炊飯器の中に前日のご飯が残っていた、その場で廃棄”となっているのでここに✕がついているわけですね。
そして“ヤマダ君が前日仕込み分のカレーをレンジで温めていたので、野菜と一緒に鍋で沸騰するまで温めるように指示。以前勤めていたお店ではレンジアップだったとのこと、衛生管理計画を確認させた。”ということで、カレー類、シチュー類のところにも✕がついているという形になってきます。
こんなふうに大体3日に1回か、週に1回かそのぐらいの程度でヒヤリハットが必ず出てくると思います。結構よく出てくるのが「食材が悪くなったのでまかないに回しました」とかというのが結構出てくるんですけども、そういった小さなヒヤリハットというのをしっかりと拾って、書いていっていただくということが重要となってきます。
「なんとなく気になるけど、わざわざ報告しない『ちょっとしたミス』(ヒヤリハット)」こそ、しっかり記録することが大事になります。
もちろん何もない日はここにあります通り、1日、2日は何もなかったということになっているので、何もない日はそのまま○がついて、特記事項にも何も書かないという形になっていきます。
何もなければ、全部○であれば30秒くらいで済むでしょうし、問題があったとしても1日5分くらいで済むと思います。この地道な作業、ヒヤリハットを拾うという地道な作業をしっかりとやっていくというのがHACCPをやる上で重要になってきます。✕つけたり、例えば「こんなことがあった、悪いことを書いたら怒られるんじゃないの?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。
そんなことはなくて、しっかりとこういうヒヤリハットを捕まえて、しっかりコツコツ、コツコツと対処していくことがHACCPを実施する上ではとても重要なこと。また食中毒予防にとって一番効果的なことといえるので、しっかりとやっていただければと思います。
HACCPの具体的な実施方法 ステップ3 「記録と計画を見直す」
ステップ3、HACCPの記録と計画を見直すという話です。
この長いブログをここまで読んで頂いて有難うございます。
ここまで読んだということは、皆さんは手引を参考に衛生管理計画を作って実際に記録していただいたという状況だと思います。毎日やることはここまでです。次は2週間~1ヶ月に1回だけやれば良いことです。
次のHACCPを実施するための具体的な方法のステップ3は記録と計画を見直すということをやっていきます。
月末に記録を計画に振り返る必要があるんですが、場合によっては、2週間に1回くらいでもいいかもしれません。
最低でも、月に1回は記録を振り返ってください。
振り返る内容は、記録を見て、✕がどこで起きているか、どこでついているかというのを確認していきます。
同じ作業や同じ場所、例えば焼き場とか、あとはスタッフの誰々君とか、同じ人で起きていないかを確認して、共通点、ヒヤリハットの共通点とその解決策を考えて見直して行くというのをやっていきます。
ここからは、いよいよ「実際の記録例」を見ながら、振り返りと改善方法を学びます。自分のお店でどうやって改善するか、イメージしながら読んで下さい。
下記の写真は許可を得て、題材とさせていただいく「実際の記録」です。
沖縄県の石垣島にある焼肉店の記録です。中身を見ていきましょう。
“ホールの人が並べるだけだからと冷凍ケーキを手で並べていた、その場で指導。10/17”、というわけで10月17日の手洗い実施の欄に否の所に○がついているということになるわけです。
良いですよね。こういうこと、本当はたくさん起きてそうですよね。
次、“スイートコーンの缶詰が開けてみると変色していた。ケースごと返品。10/23”、ですので、10月23日の原材料の受け入れの欄の所に否がついているということになります。
そして次の日、“10/24 沖縄から届いたピーマンが開けてみると溶けているものが多かった。仕入れ先に写真を送り、代わりのものを送るとの返事をもらったので廃棄”となっています。
記録をこうやって見てみると、「ちょっとうちのお店の仕入先というのは怪しいな」というのがだんだんわかってくると思います。
こういった細かい情報というのは、例えばスタッフから口頭で伝えられても、その時は何となくは印象には残っているけど、全部覚えていられないですから、ついつい忘れてしまうわけですよね。
でもこの2週間の間に2回ちょっと原材料が危ないぞ!というと、流石にちょっと気をつけないといけないかな?ということになって、対処をお願いすることになります。
続いて見ていきましょう。11月に入った記録です。
“11/3、冷凍の肉が冷蔵状態で搬入された。在庫の問題ということだったので、しょうがない”、
いや、しょうがなくないですよね。「冷凍」の肉は絶対に「冷凍」で入れていただかなくてはいけないですけれども、離島ですからしょうがないみたいな感じになってしまっている。
ますますやっぱり仕入れ先がちょっと危ないなという、感じです。
次、11月6日、器具の洗浄の所に✕がついています。見てみると、“包丁が錆びていた。拭き方、乾燥方法を指導。”です。
これもよくありそうですよね。
次“11/10、トイレが汚れていた。来た時から具合の悪そうな人がいたので、その人だと思うとのこと。”となっています。
これはこれでいいんですけれど、やはりちゃんと掃除したかどうかというところまで確認したいですよね。
私としてはとても気になるところですけれど。まあこんな感じになっているということです。
大事なのはこうやって記録を見ていくと、お店の中でどういうヒヤリハットがあるのかというのがだんだん見えてきます。そしてお店のなかで衛生管理計画を教えなければいけない相手だとか、具体的な対応策というのが見えてきます。
大事なことは、HACCPの概念的なことではなくて、しっかりこういった細かいことを書いてもらって振り返るということです。こんな風にスタッフに書いてもらうためにも、まずは最初は自分(あなた)から記録を書き始めることが大事です。
そしてその後、記録した内容をスタッフに共有して、みんなで共通意識とか当事者意識を持っていくように促すということが大事になってくるということになります。
長く読んでくださったあなたにクイズです。
ここで「クイズ」です!
この記録実は1個大問題があります。皆さん気づく方いらっしゃいますでしょうか?下の答えを見ないで考えてみて下さい。
<答え>
大問題はですね、この庫内温度の確認の所です。手引を見ればわかるんですけど、冷蔵庫の庫内温度の確認というのは原則として温度記録を取るという形になっています。
○✕でも大丈夫は大丈夫ですけど、基本的には温度記録を書くんです。
この記録を見てみると、-15℃、4℃、-3℃、1℃、-7℃、1℃というふうに、3台の冷蔵庫と3台の冷凍庫があるのはわかるんですが、あとは全部「゛」点々になってしまっていますよね。
超高性能の冷蔵庫と冷凍庫でも、一度設定した温度が全く同じということはありえないので(笑)、記録の付け方を間違っているという状態です。
正解しましたでしょうか。正解した方は件名「記録のプレゼントクイズ正解しました!」とメールを下さい。
プレゼントとして、伊志嶺の講座のクーポンプレゼントします!
今はもちろん元に戻ってちゃんとしっかりと日々温度の記録をしていただいているところですけど、こういうできないところも含めて記録を振り返るとHACCPを実施していく上で重要なことがわかっているということになります。
次の動画では、いちばん大事なところ、「④スタッフにやってもらう」というお話をします。