【HACCP義務化で要求される「安全な食品の取り扱い」とは?】
「安全な食品の取扱い」というと皆さんは何を思い浮かべますか?
手洗い、しっかり火を通す、アルコール消毒・・様々な作業が頭に思い浮かぶと思います。これらの「安全な食品の取り扱い」を理解する上で大事なことは、その「目的」です。「安全な食品の取り扱い」をその目的ごとに整理した「食中毒予防3原則」を理解していきましょう。
ステップ3 安全な食品の取り扱い
前々回のステップ1では「心構え」について、そして前回のステップ2では「食中毒の加害者にならないために」について、お伝えしました。
今回のステップ3は、いよいよコラムのメインテーマである「安全な食品の取り扱い」についてお話していきたいと思います。
ウイルスやばい菌というのは、残念ながら目に見えません。しかし、ウイルスやばい菌に対してしっかりと対策を講じないと、食中毒として消費者の健康を害し、時には命を奪います。
食中毒を引き起こさないためには、食材を「安全に取り扱う方法」を理解する必要があるのです。
ステップ3は、以下の3つのレッスンで構成されています。
食中毒予防3原則
ばい菌を「つけない」~一般衛生管理(5S)
ばい菌を「ふやさない」「やっつける」~重要管理(HACCP)
コラムのメインテーマということもあって、どのステップも重要度は非常に高いです。
安全に食品を扱うにはどうしたら良いのか、しっかりと学んでいきましょう!
食中毒予防3原則(つけない・ふやさない・やっつける)
HACCP義務化により、食品衛生法で皆さんには「衛生管理計画(食品の作り方のルール)」を作らなければならないと定められました。
実は、この「衛生管理計画」は、「食中毒予防3原則」に基づいて作られています。
「食中毒予防3原則」とは、以下の3つを指します。詳しい説明は「政府広報オンライン」へ
・ばい菌をつけない
・ばい菌をふやさない
・ばい菌をやっつける
なお、食中毒の患者数第1位であった「ノロウイルス」は、食品の中では増えず、「ふやさない」は有効ではありません。代わりに「持ち込まない」や「広げない」に置き換わります。
それでは、この食中毒予防3原則の具体的な内容とどのようにHACCPの衛生管理計画に活かされているのか、順番に、その概要をご説明します。
食中毒予防3原則「つけない」=HACCPの「一般衛生管理」
HACCP義務化で作成しなければならない「一般衛生管理計画」のほとんどは、食中毒予防3原則の一つである「つけない」のために規定されています。
一般衛生管理を簡単にいうと「洗うこと」(洗浄・消毒、個人衛生)と「区別して使うこと」(器具備品・施設の管理)を意味しています。
具体的には、
①手洗い、器具などの洗浄
②まな板や包丁、器具の使い分けやラップや容器による食材の汚染防止
③体調管理や衣服などの清潔維持
を指し、どれも手や衣服からバイ菌がつかないようにすることが求められています。
食中毒予防3原則「ふやさない」=HACCPの「重要管理」(危険な温度帯)
ばい菌を増やさないためには、食材を低温で保存し、期限管理していくことが重要となります。
ばい菌には増えやすい「危険な温度帯」というものがあり、その範囲は10℃~60℃となっています。
なかなか60℃以上の高温で保存するのは難しいので、ほとんどは10℃以下、つまり冷蔵庫で保存することになります。但し、低温であっても少しずつですがばい菌は増えてしまいますので、冷蔵庫を過信することなく期限管理していく必要があります。
【食中毒予防3原則「やっつける」=HACCPの重要管理(加熱温度と時間の管理等)
衛生管理計画における「やっつける」とは、加熱処理や化学殺菌によりばい菌をやっつけることを指します。
75℃で1分以上加熱するのが基本となりますが、冷凍では殺菌はできませんので注意が必要です。
ほとんどのウイルスやばい菌は加熱によってやっつけることができますので、肉や魚、野菜などは加熱すれば安全に食べることができます。
特に肉は厚みがありますので、中心部を75℃1分以上加熱するように心がけましょう。
なお、75℃での1分間加熱は、65℃では10~15分加熱に相当すると計算により換算することができます。
そして、最近は低温調理が流行りとなっていて、さまざまな情報が飛び交っています。
しかし、加熱殺菌温度と時間の換算は単純な計算式で求められず、食材の厚みや熱伝導性、加熱の方法や調理する食材の量などを考慮する必要があります。
安全な温度と時間を決めるには、専門家に相談したり検査をしっかりおこなう必要があります。
「『低温調理』のレシピで温度と時間が紹介されていても、本当に安全な加熱条件(温度と時間)なのか、しっかり確認する必要がある」ってことだね。
ばい菌を「つけない」~一般衛生管理(5S)
ここまでで、「食中毒予防3原則」の大まかな内容について学びました。
ここでは、「ばい菌をつけない」について、深堀りしていきたいと思います。
ばい菌をつけないようにするためには、「洗うこと」と「区別する」ことが重要となりますが、これは「5S管理」で考えるとわかりやすくなります。
「5S管理」のことを「一般衛生管理」と呼ぶこともありますが、一言で言うと「バイ菌をつけないための対策」となります。参照:農林水産省「食品衛生の基本となる5S活動」
「5S管理」とは、以下の5項目をまとめたものです。
・整理(seiri)
・整頓 (seiton)
・清掃 (seisou)
・清潔 (seiketu)
・習慣 (syuukan)
これらは全てローマ字表記すると頭文字が「S」となりますので、「5S」と呼ばれています。
それでは一つずつ、ご紹介していきましょう!
5Sついての厚労省のリーフレットはこちら
【①整理】
「整理」とは、必要なものとそうではないものを区別し、不要なものを処分することを言います。
製造や加工、調理、包装、保管をおこなう場所に不要なものを置かないようにしなければいけませんが、不要なものとは、作業に関係のないものや私物も含まれます。
つまり、仕事が終わったら何も置かれていない状態であれば「整理されている」と言えるわけです。
整理するためには不要なものを捨てていく必要があるわけですが、
「いつか使うかもしれない」
「お金出して買ったものだし…」
などといった「もったいない精神」が邪魔をして、整理がなかなか捗らないという方もいらっしゃるかと思います。
しかし、現時点で使わないものはほぼ一生使うことはありませんし、物を溜め込んでいくと逆に物を大事にしなくなってしまいます。
よって、「整理」を進めていく上で最も必要なことは、不要なものを捨てるという「決断」をすることだと言えます。
不要なものを捨てなければ、必要なものはずっと埋もれたままになってしまいます。
捨てることはとても難しいですが、必要なものを大事にしていくためにも、しっかりと「決断」していきましょう!
【②整頓】
「整頓」とは、必要なものを、どこに、どのように、どのくらいの量を保管するかを決めていくことです。
先ほど①「整理」で不要なものは全て捨てたはずですので、「整理」の続きということになりますね。
「整頓」で大事なことは、必要なものを「あれ、どこにしまったかな?」などと考えさせることなく保管していくことです。
必要なものを探している時間は勿体ないですし、食品を安全に保ちたいのに無駄に時間を浪費しては安全性も低くなってしまいます。
そのため、機械器具やその部品、道具類は決められた場所へ、そして向きや色を統一して保管する必要があります。
洗浄剤や消毒剤などの化学物質は間違えることがないように、容器にラベルを貼るなどして対策を施しましょう。
「整頓」は作業を効率化させていくことがポイントとなりますので、「取り出しやすさ」や「わかりやすさ」を大事にして頂きたいと思います。
作業の効率化は状況によって変化するものですから、その時々の業務内容に合わせて改善し続けることが重要です。
【③清掃】
「清掃」とは、ゴミやほこり、商品を作る上で出た残がいなどを取り除くことを指します。
製造施設やその周辺環境などは常に清掃し、工場が稼働している間は常に清潔に保たなくてはいけません。
清掃用具も使うたびに洗浄して乾燥させてバイ菌が繁殖しないようにし、専用の場所に保管しましょう。
清掃においては、きれいにすることが求められがちですが、実は「点検」というもう一つの重要な役割があります。
清掃する際は手を使って行いますが、手を使っていろいろなところに触れることで、些細な不具合はないか、異常はないかなど設備を点検することもできるのです。
会社によっては清掃を点検と呼ぶところがあるくらい、清掃には小さなヒヤリハットを発見するための重要な役割があります。
是非清掃する際には「発見する意識」を持って頂ければと思います。
【④清潔】
「清潔」とは、整理、整頓、清掃がなされ、きれいな状態を保つことを指します。
施設の内壁や天井、床、製造設備は常に清潔を保つ必要がありますが、そのためには施設や設備は適切に洗浄したり殺菌したりすることが重要です。
清潔を心がけていくうえで、是非意識して頂きたいのは「美意識」です。
施設を清潔に保つために、菌が触れやすい天井や床をきれにしておくのは当然ですが、内壁や外壁など製品の汚染に直結しにくい場所にも意識を持たなくてはいけません。
なぜなら、人は特定の場所だけきれいにしても、全体をきれいにしているとは思えないからです。
全てのものがきれいに管理されてこそ、清潔になったと言えます。
例えば、銀座のブティックが並ぶような通りでは、ゴミをポイ捨てする人はいません。
このような場所は常に全体が清潔に保たれており、美意識が伝わっているからですね。
一方、駅前のガード下など、暗くてゴミがある場所というのは、全体が汚いためどんどんポイ捨てされてしまうのです。
職場全体の美意識は、職場の中で最も低い人の感覚に合っていきますので、全員の共通認識を高めていきましょう!
【⑤習慣】
最後の「習慣」ですが、手順やルールを定め、決められたとおりに実施していくことが重要となります。
今までの古い習慣から、新しい管理方法の習慣を身につけて習慣化していく必要があります。
習慣化させることは非常に難しいため、上司等が最後までやらせる姿勢を持たなければいけません。
これらの5S活動がしっかりできていれば、食中毒予防HACCPは半分以上できていると言って過言ではありませんので、しっかりと取り組んでいきましょう!
ばい菌を「ふやさない」「やっつける」~重要管理・HACCP管理
食中毒予防3原則の「ふやさない」「やっつける」については、先程大まかな内容を説明しましたが、さらに深堀りしていきたいと思います。
「ふやさない」「やっつける」はどちらも作業を管理することであり、「HACCP」「重要管理」でそのチェック方法を決めていくことになります。
先ほどばい菌が増えやすい「危険な温度帯」があるとお伝えしましたが、食材(原材料)が「危険な温度帯」に長く留まらないようにをしっかりと時間と温度を管理することが重要となります。
温度の管理には、以下の4つのグループにわけられます。
・グループ1:加熱することなく、10℃以下で保存して10℃以下で提供するもの
・グループ2:冷凍、冷蔵、または常温の食材を加熱して提供するもの
・グループ3:加熱後冷却し、そのまま食べる又は再加熱して提供するもの
・グループ0:温度管理が不要なもの。
グループ1では危険な温度帯は通過せず、グループ2は1回通過、グループ3は2回又は3回通過することになります。
作業を管理していくためには、メニューを4つのグループに分類し、それぞれについてチェックしていく必要があります。
それでは順番にご紹介していきましょう!
【グループ1 非加熱食材の作業管理】
グループ1は冷蔵管理で非加熱の食材であることから、「ふやさない」を管理していくことになります。
「管理する作業」は解凍する作業、冷蔵保存する作業と提供する作業、「管理する項目」は温度と時間です。
解凍作業の管理方法
グループ1において重要な作業の一つは「解凍」となりますが、安全な解凍とは食材の種類や使用するまでの時間によって最適な解凍方法を選択することです。
主に解凍方法には以下の4パターンが挙げられます。
冷蔵庫解凍:ドリップが出て、時間がかかってしまう。
流水解凍:早くて最も使われているものの、大きな食材には不向き。
加熱中の解凍:とても安全だが加熱工程がある場合にしか使えない。
レンジでの解凍:よく使われるが解凍ムラが出る恐れがあり、大きな食材には不向き。
この他にも「常温解凍」がありますが、常温解凍は中心部と外側で大きな温度差が生じてしまい、危険な温度帯になっても解凍のために長時間放置される恐れがあります。
食中毒が発生してしまうリスクがありますので、常温解凍は行わないようにしましょう。
非加熱食材の殺菌(化学殺菌)
また、非加熱の場合は野菜などに化学殺菌が必要となりますが、ブロッコリーなどの産毛のある野菜や葉物は浮いてしまいますし、そもそも産毛によっては殺菌剤を摂食させられないケースもあります。
野菜によって特性が異なりますし、化学殺菌のタイミングによって殺菌の効果が異なりますので、しっかりと把握しておく必要があります。
【グループ2 加熱食材の作業管理】
グループ2の食材は加熱して提供しますので、基本的には「やっつける」を管理していくことになります。
管理する作業は加熱(調理)作業、管理する項目は加熱温度と時間となりますね。
加熱作業の管理方法
どれくらいの温度でどれくらいの時間加熱すれば良いのかをあらかじめ決めておく必要がありますが、加熱温度を把握する方法として幾つか挙げられます。
・中心温度計:最も正確だが、手間がかかってしまう。
・器具の温度設定:便利だが、加熱ムラが起きたり、場所によって温度が異なるので注意。
・目視:飲食店で最も使われている方法だが、目視担当者の訓練がないとリスクが生じる。
すぐに食べない加熱食品(テイクアウト・デリバリー)の管理方法
グループ2において、ケアしておく必要があるのが「すぐに食べない場合」です。
グループ2のカテゴリーで考えても良いかどうかは、食べるまでの時間によって変わります。
お惣菜やお弁当、デリバリー、テイクアウトなどは調理した後にすぐ食べられるわけではないので、冷蔵したり、短時間で速やかに食べてもらう(2~3時間が目安)ように通知しなければいけません。
もし召し上がるのが3時間を超える場合は、加熱後冷やして提供するグループ3の適用となります。
食材を提供した後はお客様の判断となってしまいますので、丁寧に伝えることが重要です。
【グループ3 加熱後冷却(再加熱)食品の作業管理】
グループ3は「やっつける」と「ふやさない」の合わせ技となっており、加熱して冷却又は再加熱して食べることを想定しています。
よって、「管理する作業」は加熱と冷却、再加熱の作業、「管理する項目」としては温度と時間、再加熱、食べるまでの保存期間となります。
加熱後冷却食品で管理すべき作業
グループ3においては、一度加熱したものを冷却するところに特徴があります。
75℃で1分間加熱するとほとんどのバイ菌は死滅しますが、中には死なないバイ菌もいます。
そのようなバイ菌はゆっくり冷ますと一気に増えてしまうため、食中毒のリスクが高まってしまいます。
食材の冷却方法
食中毒のリスクを抑えるためには、少しずつ冷やすのではなく、急激に冷やす対応が求められます。
その方法には、主に以下の3つが挙げられます。
・小分け冷却:ロスが少ないため、一番お勧めできる冷却方法。
・氷水での冷却:カレーなどある程度の量がある場合には最適。
・ブラストチラー:便利だが非常に高価であるため、必須ではない。
【グループ0の作業管理】
グループ0は温度管理が不要、つまり常温で管理していくものですが、「ふやさない」と「つけない」を管理していく必要があります。
温度管理不要な食材で管理すべきこと
「管理する作業」としては湿気させない、混ぜない、「管理する項目」は水分やpH管理となります。
常温で流通する食品というのは、開封前の状態を維持することが重要です。
調味料は保存に優れていますが、水分の多い食材と混ざると水分活性の影響やpHが変化して保存性が下がってしまいますのでご注意ください。
常温で流通できるのは菌がいなくなっているからであり、開封したり、何かと混ぜたりして菌が発生する要因を作ってしまうと安全ではなくなってしまいますので、管理はしっかりおこないましょう!
バイ菌を「ふやさない」、「やっつける」を食材や加熱、冷却作業から具体的に考えることで、食中毒のリスクを減らすことができます。
そのためには衛生管理計画を守ることが重要であり、衛生管理計画では「ふやさない」、「やっつける」をしっかりと行うために作られていることをご理解頂ければと思います。